私たちは頭の中に「地図」を作っている
私たちは、外からの情報を取り入れる時、頭の中で考えて、それに基づいて行動しています。そして、私たちは生まれてから様々な経験を通して、自分なりの価値観・世界観を築いています。それにより私たちは、自分の「地図」を創り上げているのです。「地図」というのは、個人の物事の感じ方や考え方です。実は、人は現実に反応するのではなく、現実を描いた「地図」に反応しているのです。
そして「地図」というのは現実を知覚する際の対応図であり、実際の「土地」ではありません。私たちは、五感(視覚・聴覚・身体感覚・嗅覚・味覚)の神経を通して、外の情報を受け取っています。そして脳は、これまでの自分自身の過去の記憶・思考パターンをもとに五感の情報を整理・意味づけし、「情報をイメージ化」するのです。しかしながら、そこには、その時の身体や心理的な状況、自分の育ってきた環境や経験から、価値観や思い込みの「地図」が存在しています。その「地図」は、私たちがどのように外の出来事を捉え、どのように反応するのか「フィルター」をかけます。そして、「地図」は、情報を再構築し、私たちの行動や意図の表現の仕方を左右するのです。
私たちは、「フィルター」にかけられた「知覚の現実」を自分なり解釈した「地図」であることを忘れがちです。したがって、自ら作り出した「ストーリー」を信じ込んでしまい、「現実世界」と「現実の知覚」が同じであると思ってしまいがちなのです。私たちが、見て、聴いて、感じているものは「現実の土地」ではなく「地図」なのです
解釈のサイクル
私たちは現実を自分なりに解釈して「地図」を作っており、その「地図」を元に外の出来事を捉え、どのように反応するかを決めるという「解釈のサイクル」を繰り返しているのです。
ある日、Mさんが元気がない様子で出勤しました。 |
内的反応 ◎上司のK部長:Mさんは何だか元気ないな。昨日は遅くまで残業だったんだろうな。 ◎同僚のHさん:あれ?Mさんは、また飲み過ぎたな。気を付けないとね。 ◎部下のSさん:何だかMさん、元気ないな。遅くまでゲームで寝不足なんだな。 |
外的行動 ●上司のK部長:Mさん、元気ないね。仕事は一人で抱え込まずに相談してね。アドバイスするよ。 ●同僚のHさん:Mさん、しんどそうだね。お酒のストレス解消は、ほどほどにした方がいいよ。 ●部下のSさん:Mさん、寝不足ですか?面白いゲーム見つけたんですか? |
同じ世界を見ていても、「地図」は人によって異なるため、全く違うように見えており、そのため人によって物事の感じ方・捉え方が異なってしまいます。
この事例では、K部長は、Mさんの常に真面目で仕事熱心な状況を把握しており「地図」を持っています。同僚のHさんは、Mさんと一緒に飲みに行く中なので、お酒好きな情報を得ており「地図」を持っています。部下のSさんは、Mさんにゲームの情報を教えてもらうという「地図」があります。
同じ状況を見ても、価値観や思い込みで意見が食い違うのは、それぞれの地図が異なっているためです。そして、Mさんの回答から、さらに自分自身で新たな解釈をするというサイクルを繰り返すのです。
Mさん:「ちょっと花粉症で、咳が出て昨夜は眠れなくてね」 |
内的反応 ●上司のK部長:やはり、仕事し過ぎだな。ちょっと業務分担考えないとな。 ●同僚のHさん:なんだ。花粉症か…週末飲みに誘おうっと。 ●部下のSさん:体調不良だったのですね。勘違いして申し訳なかったです。 |
このような「解釈のサイクル」を起こしてしまいます。今回は、「地図」という表現をしていますが、皆さんも、「何だか価値観が違うな」と驚いたこともあるのではないでしょうか。私は、以前、スポーツ推薦クラスを担当していた時、卒業間近で全員の写真を撮って欲しいと頼まれました。全体的に高身長なので、なかなかフレームに収まらなかった時、一人の学生が「先生は小柄だから椅子に乗って撮ってよ」と声を掛けられました。私は身長が164cmなのですが、それまで「小柄」と表現されたことがなかったので、驚いた記憶があります。相手側の地図で見ると、「なるほど、このメンバーではかなり小柄だよね」と納得しました。
私たちは地図を作ることは自然に行っていますが、地図を変える方法はほとんど理解していません。人はそれぞれ異なる「地図」を持っていることを受け止めて、自分の持っている「地図」を書き換えることができることを理解し行動の幅を広げていきたいですね。
コミュニケーションの流れとは
私たちは、他人とコミュニケーションを取るときにも、同じプロセスを経ています。私たちが相手に何かを伝えようとするとき、非言語(イメージ)から言語に変換される前に、必ず話し手の育った環境、価値観や思考パターンなどが物事の解釈に反映されています。
そして、受け手も自分の「地図」で解釈します。やはり育った環境や価値観などのフィルターを通して、自分が受け取りたい意味で相手の言葉を解釈します。この結果、伝えたい意味にギャップが生じて、円滑なコミュニケーションが取れないことがあります。
自分の内的反応 (伝えたい本心) | フィルター ➡ | 外的反応 (表現) | フィルター ➡ | 相手の内的な反応 (自分の地図で解釈) |
自分自身の 育った環境・価値観 | 相手への気配りや遠慮など | 言葉・声のトーン 雰囲気・ボディランゲージ | 自分に都合が良いように解釈する | 自分自身の 育った環境・価値観 |
K部長: Mさんは、やはり無理して頑張り過ぎているな。体調も気を付けないとね。 | フィルター ➡ | K部長: 「Мさんは、ちょっと仕事量多そうだから、今回のPのプロジェクトはYさんに依頼するよ。」 | フィルター ➡ | Mさん: 自分が頼りないから、Yさんに頼むのかな。部長に信用されていないのかな。 |
このように、自分の伝えたい本心にフィルターがかけられ、さらに表現によっても伝わり方が歪んでしまい、相手の思い込みや価値観によって解釈が異なり、誤解が生じてしまうこともあるのです。
相手の反応こそがコミュニケーションの成果
そして、コミュニケーションにおいては、言葉だけでなく「あなたの状態」が相手に伝わっているということです。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンの研究では、コミュニケーションの印象を決める割合として、態度や表情が55%、話し方や声のトーンが38%、話の内容はわずか7%です。私たちは言葉によってコミュニケーションを取っていますが、言葉が占める割合か7%であり、あとの93%は非言語のコミュニケーションです。
したがって、「相手の反応こそがコミュニケーション」の成果です。相手が受け止めた部分がコミュニケーションの結果であり、「何を伝えたか」ではなく「何が伝わったか」が大切なのです。
まとめ お互いの「地図」の違いを理解しよう
私たちが人と関わる中で、自分の意見と相手との意見が100%一致することなど、ありえませんよね。相手の意見に共感できなくても、それは「地図が違う」と受け止めることも必要となります。
そして、自分が持っている「地図」を書き換えることは可能なのです。相手の地図に少し近づけるように努力したり、また相手の地図も変化するように働きかけることにより、徐々にその地図を近づけることはできるのです。そのように考えると、苦手意識を持っていた人とのコミュニケーションも少しずつ改善され、楽になるかも知れません。
自分が「K部長は頑固だな」という「地図」を「K部長は強い信念を持っているんだな。」という「地図」に書き換えると、見方や行動が変化し、楽にコミュニケーションを取れるかもしれませんね。