日本社会における世代関係の問題点
現代社会においては、家族、職場など世代間の交流が希薄化しており、コミュニケーション不足が深刻化しています。そもそも世代間ギャップとはどのようなものなのでしょうか。世代差によって物事に対する考え方が異なり、ときには相互理解に食い違いが生じ、何らかの支障をきたす状態です。
現代の居住環境は、核家族化が進行し、他人との摩擦を避け、個人の自由を最大限に尊重する生活を好む傾向にあります。その結果、世代間のコミュニケーション不足が生じ、幅広い世代との会話が減少しています。昔の大家族との同居が理想ですが、現状の居住空間や世代の価値観の違いなどから、今後も実現が難しいと言えます。
さらには、現代の日本では高齢化率が約30%です。コロナ禍でさらに在宅率が加速し、高齢者は年齢や体力の問題から外出しづらい状態であり、若者との交流の機会が減少しました。また、高齢者にとっては孤独感が募ることで、身体的・精神的な健康の悪化につながる可能性や世代間の共感を深めることができないため、世代間の摩擦や疎外感が生じることも考えられます。
そのため、年配者と年少者が日常的にコミュニケーションを持つ場が、居住空間から消えつつあります。特に定年を迎え退職後の人達は、違う世代とコミュニケーションを取る機会がほとんどなくなっています。
そして、若者においても、両親や先生以外の大人との接触が少なくなっています。現代の若者は、年齢不相応な行為も、他人からは全く注意されなくなっており、自宅や学校以外での自分の行動が、一般社会の規範に適合しているか否か理解しづらくなっています。その結果、若者は社会の経験や知識を共有できる機会が減少するため、成長や学びの機会が制限されてしまうことになります。また、若者は忙しい生活やSNSの普及によってリアルなコミュニケーションを減らす傾向があり、対面でのコミュニケーションに苦手意識を持っている人も少なくありません。
このように世代間のコミュニケーションが希薄になることにより、個人の価値観に偏りが生じ、人間関係構築にも大きな影響を及ぼしているといえます。
『孤立者』を生み出す背景とは
実際に、世代間のコミュニケーション不足は、社会に深刻な問題を生み出しています。現代では、高齢者の犯罪が増加しています。なぜ『キレる高齢者』が増加するのかと疑問視されていますが、高齢犯罪者の特性としては、親族等から疎遠となり、単身で経済的にも不安定な状態が多いことや、高齢期特有の心身上の問題点や疾病等を抱えている場合が多いです。高齢者を取り巻く環境は変化しており、『孤立者』の増加に目を向けなければなりません。
人は、性格は変わらずとも、環境によって、行為を変えてしまうことがあります。その大きな要因は『孤立』です。独居高齢者は増加していますが、自由を好み、自ら孤独を選択し、離れていても親族や友人と上手に付き合っている人も多いです。
そのように好んで『孤独』を選ぶのではなく『孤立』している人が問題なのです。親族とも疎遠になり、会話が苦手で近所づきあいが薄く、行政サービスも利用できないなど、人間関係を築くのが難しい高齢者が、社会から疎外されていくのです。
この孤立は、高齢者だけでなく若者たちにも影響しています。同世代の人と上手に付き合えず、友達がいないことが恥ずかしく、トイレで昼食をとる『便所めし』を行う若者もいるのです。
最近の若者は、少子化で兄弟が少なく、両親も共働きが多いという事情から、対面の会話が少なく、ツールで交流をとってきた世代です。学校側は、いじめ問題を解決するために、『仲間はずれ防止対策』として、給食はグループで食べることや、友達は多く作ることが協調性を生むと教え込んできました。
その結果、逆に疎外感を恐れ、孤独に弱く、自立心を持てない若者の増加につながっています。自分の意見を伝えられず、常に他人の目を気にして、自分に自信を持てず積極的に周りに働きかけられないのです。このように、世代交流の減少は、人間関係構築に支障をきたし、『孤立者』を生み出しているといえます。
『コミュニケーション教育』の重要性
このように、世代間のコミュニケーションの経験が少なくなっている現状を変えるには、あえてその空間を作り出し、経験値を上げていくしかありません。
そのためには、まず、『教育』と『環境』を変化させる必要があります。孤立するというのは、個人の心理的問題ととらえられがちであり、カウンセラーなどを配置して、問題を解決しようとするというのが学校や組織の近年の動向です。実際には、心を開き、自分の世界を広げる努力をサポートする教育が必要なのです。
自分自身も、現在、大学生の演習科目を担当していますが、全く心を開けなかった学生が、場数を踏むことで対人コミュニケーションに慣れていき、一年後には、ディスカッションに主体的に参加できるようになり、二年後にはグループリーダーを務めるまでに成長したという個人の変化を確認しています。
コミュニケーション能力を惹き出す教育は難しいですが、個々に相手を承認することを促し、話しやすい雰囲気作りとお互いに心を開いていくような空間を作ることは可能なのです。会話に少しずつ慣れ、周りから存在を認められることにより、自信を取り戻し、自主性を高めていくことができます。そのようなことを実践できる環境を整えていく必要があり、若者に対しては、SNSの仮想空間だけでなく、リアルな交流の重要性も伝えていくことが大切です。
そして、若者だけでなく高齢者自身による社会的適応の学習、精神的情緒的の安定などその生き方についての教育的な施策を進めることも重要です。国や自治体も高齢者教育に着目し、独居高齢者を定期的に訪問するなど、状況を確認し『生きがい』を見出せるように指導する仕組みを作らなければなりません。孤立者が、自分の人生を前向きに考え、一歩ずつ前進できるように、自分の力で人生を生きるために、人間関係を上手に構築できるように教育する環境を整えていくべきなのです。
高齢者向けの施設やプログラムを充実させることで、交流の場を提供することが重要なのです。また、家族や地域社会において、世代間のつながりを大切にする文化を醸成することも考える必要があります。結論として、世代間交流の減少は社会全体にとって深刻な問題であり、解決策を考えなければなりません。高齢者と若者が互いに刺激を受けながら交流することで、社会全体の活力と結束力が高まることが期待されます。私たち一人ひとりが積極的に関わり、世代を超えた交流の場を創り出すことで、より良い社会を築いていくことができるのではないでしょうか。
まとめ 世代の違う人と関わる取り組みに参加しよう
私たちの身近でも、世代の違う人と関わる場所はあるはずです。近年では「異世代ホームシェア」という取り組みが進んでいます。空き部屋がある高齢者の住宅に、若者が同居し、共同生活を送る住まい方です。 共同生活の中では、若者が高齢者の生活を手伝うことがあっても、それは介護ではなく、食事はそれぞれが準備する等、両者が合意したルールの中で、適当な距離感を保ち生活しています。
この生活には、双方ともにメリットがあり、学生側は「生活費が抑えられる」「食事などの役割分担ができるので勉強に集中できる」「世代が違う人の価値観を学ぶ機会になる」といった前向きな感想を持っています。
一方シニアの場合、当初は「コミュニケーションが難しいのでは」と不安の声がありましたが、実際に同居してみると「生きがい」「安心感」といった精神的な充実を感じるという感想に変わっているようです。
若者と年配者がお互いに理解し合い、尊重し合うことで、さまざまな世代が一体となって社会課題に取り組むことが可能となります。若者の『技術力』と年配者の『知恵』を組み合わせれば、高齢者の生活をより快適にするサービスが生み出すことができるかも知れません。このような取り組みは、社会の結束を強めるだけでなく、お互いの生活の質を向上させることにも繋がるのです。
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参考
シニアと大学生による異世代ホームシェアが、超高齢化社会にもたらすものとはhttps://miraisozo.mizuhobank.co.jp/wish/80380
世代間購入の活性化による新たなコミュニティ形成に関する研究 財団法人ハイライフ研究所
法務省 高齢者犯罪の実態と処遇 http://www.moj.go.jp/content/000010212.pdf
二宮祐 「便所飯」に関する一考察:大学における心理主義 一橋大学機関リポジトリ(大学教育研究開発センター年報, 2010: 63-71) 2011年3月
久保田治助 高齢者教育における生きがいの二極化(小林文成の生きた教養論をとおして) 早稲田大学大学院教育学研究科紀要 別冊 11号-1 2003年9月
参考文献
島 悟 ストレスとこころの健康 ナカニシヤ出版 2009年2月
和田秀樹 なぜ若者はトイレで「ひとりランチ」をするのか 祥伝社 2010年6月
西和彦 60歳からの暮らしの処方箋 幻冬舎ルネッサンス新書 2010年8月