アサーションとは?
アサーションというのは、相手も自分も大切にする自己表現です。相手を尊重しながら、自分の意見も上手に伝えるコミュニケーションの方法です。職場や家族間であっても、自分の気持ちを素直に伝えることができない場合があります。それは、私たちは、これまでの経験の中で、自分では気づいていないのですが、コミュニケーションの癖というのを持っています。
あなたの周りの対人関係を振り返っていただくと、次々と仕事の依頼を受けた時に、断ることができないような非主張的な対人関係や、後輩に対して、つい感情的に叱咤し過ぎてしまう攻撃的な対人関係など上手な自己表現ができていない場面に出会ったことがあると思います。特に、オンライン上のコミュニケーションが増えていますが、相手の表情がつかめず、感情が読めないなど円滑に対人関係が築けないことが増えていますね。それでは、実際に以下の事例の場合、あなたならどのように答えますか?
あなたは、今日は得意先でクレームがあり、残業を覚悟して、大急ぎで資料を修正しています。 その時、先輩のSさんが「Tさん、この資料パソコンで急ぎで作ってくれる?。明日の会議で使うの で、いつものように何とか頼むよ~」と依頼してきました。 Sさんは、いつもこちらの都合など聞かずに、仕事を依頼してきます。Sさんは、あなたの新人の頃の指導係だったこともあり、いつも断れずに引き受けてしまいます。 今回こそは、上手に断りたいと思います。あなたはどのように伝えますか? |
自分の思いを適切に表現するためには、自分が何を思い、感じていて、相手に何を伝えたいのか把握することが必要です。まず自分の心、気持ちに向き合って、今の自分自身を受け入れて、尊重することが大切なのです。そして、相手を尊重し、相手の立場も理解し、自分の要求や主張が相手に受け入れてもらいやすいように上手に伝えることが必要です。そのためには、事実に基づいて、相手が受け入れやすいように配慮しながら、自分自身の主張も上手に表現するということが必要になってきます。
自己表現の3タイプとは?
自己表現のタイプには、以下のとおり3タイプあります。
A:非主張的(パッシブ)タイプ (消極的・自己犠牲的・あいまいな言い方) いつも相手を優先して自分は後回しで、自分の意見や考えを言えないタイプです。 自分を傷つけ、相手を恨んでしまう可能性があります。 |
B:攻撃的(アグレッシブ)タイプ (自己中心的・わがまま・無神経・支配的・脅迫的) 自分のことだけ考えて、相手は無視します。自分の言いたいことや、 考えを相手に押し付け、 相手を傷つけ、相手から恨まれてしまう可能性があります。 |
C:アサーティブな自己表現 (冷静・落ち着き・客観的・前向き・穏やか・素直・論理的) 自分も相手も傷つけず、双方とも納得できます。自分も相手もどちらも満足でき、お互いさわやかな気持ちになります。 |
アサーティブな自己表現を行うためのDESC法
アサーティブな自己表現はDESC法で伝えます。
◎状況を客観的に描写する(Describe) •状況や相手の行動を描写する •具体的で客観的に表現できることを述べる |
◎自分の主観的な気持ちを説明する(Explain) •自分の主観的な気持ちを述べる •感情的にならず、正確に建設的に表現する |
◎提案をする(specify) •相手に望む行動・解決案・妥協案などを提案する •具体的で現実的な小さな行動を明確に述べる |
◎代案を述べる・選択する(Choose) •相手の反応がYesとNoのそれぞれの場合に対して、次にどうするかの選択肢を示す |
今回の事例の解答例
まず、現状の事実を共有します。現状を客観的に描写し事実を伝えます。
今回の事実は「あなたは今日は残業になるときに 先輩が急ぎで仕事の依頼」です。
自分と相手が理解している事実に違いがないように事実を共有します。
『誠に申し訳ございません。先輩のお仕事がお急ぎなのは理解できるのですが、 私も本日はクレームがあり、急ぎで資料を作成しております。』 |
次に、相手を配慮しながら自分の感情を伝えます。相手を配慮しながら自分自身の気持ちを伝えます。自分の主観的な気持ちを伝えるためのアサーティブな表現は、Iメッセージで伝えます。YOUメッセージは、「あなたを主語」にして、伝える伝え方です。「あなたはいつも努力していますね」という言い方は信頼関係ができている場合は良いのですが、そうでない場合は「私の何を知っているの?」という気持ちになってしまいがちです。そして、日本人の気質として謙虚な方が多いので「そんなことないですよ~」と謙遜してしまうことも多いです。
Iメッセージというのは、「自分を主語」にして伝える伝え方です。「あなたの努力を見ていると、私も励みになって前向きに取り組みたいと思えるの」など、自分の言葉として伝えます。そのようにすることで、相手は素直にメッセージを受け取ることができるのです。相手を配慮しながらも、自分の気持ちを上手に伝えます。アサーションでは、言葉を上手に使うことよりも、自分自身の気持ちを伝えることが大切なのです。
『私はいつもSさんのスピーディーな対応を目標に仕事に取り組んでいるのですが、まだ私は未熟なこともあり、資料作成に時間がかかってしまっております。』 |
そして、はっきりと丁寧にクッション言葉と依頼形で伝えます。
そして、具体的な行動の提案を行います。相手に望む解決案を上手に伝え、具体的な行動を明確にします。そして、要求やお願いは、はっきりと丁寧に『クッション言葉+依頼形』で伝えます。クッション言葉とは、「失礼ですが」「恐れ入りますが」「申し訳ごさせいませんが」などワンクッション置く言葉です。依頼系は「~でしょうか?」という疑問形にします。
『恐れ入りますが、今回は別の方にご依頼いただけませんでしょうか?私が手伝ってくださる方を探しましょうか?』 |
最後に、相互理解へと導いていきます。お互いの意見を出し合い結果を選択していきます。お互いが納得できる結果へ導いていくのです。
『そうか、そうか…忙しいのだね。いつもTさんにばかり、仕事を依頼して申し訳なかったね。私も頼みやすいので、つい甘えてしまっていたね。別の人を探してみるよ。』 『ありがとうございます。お力になれず申し訳ございません。今ならKさんが、対応できるかも知れません。次回は、対応できるように努力いたします。』 |
大切なことは、組織では同じ人と長くつきあっていかなければなりませんよね。自分の感情を押し殺してでも、相手に合わせるということではなく、相手と自分とは違うという意識をもって接することこそ大切です。「自分の考えが正しい」ことが前提ではなく、「皆、違った考えをもっている」ことを理解しなければなりません。意見や考えが食い違って対立したときには、とことん話しあってお互い納得のいく妥協点を見つけることが必要です。自分の意見も相手の意見も大切にしながら、意見の食い違いがあっても歩み寄ろうとする姿勢が大切です。
これは、分かり合うことが目的ではなく、人はそれぞれ違った考えを持っていることを理解するためですね。自分の気持ちに真摯でないことは、相手に対しても真摯な態度と言えないのです。相手を配慮しながら、自分の気持ちを大切にすることでバランスを保つ必要があります。
ノンアサーティブタイプ(非主張的)を改善するには?
それでは非主張的な方がアサーティブになるために何が必要なのでしょうか?相手を優先することで自分のことが後回しになるため、結果的に相手の言いなりになってしまうこともあるかもしれません。自分の意見を抑えて相手に譲ったつもりなのに、相手にはその配慮や気持ちは伝わりにくいです。結果的に、感謝されるどころか「あなたもこの方が良いと思ったんだよね?」と誤解されやすいです。気持ちを抱え込んで、耐え続けることでストレスを抱え疲れ果ててしまいます。そうすると、「コミュニケーション=ストレス,疲れる」と捉えるようになり,人間関係を避けがちになってしまい、心の病に発展してしまうこともあります。そこでこのタイプの方は、自分を開示するということが必要です。
相手に対してありのままの自分を見せていきます。悩みを打ち明けたり、将来の夢を語ったり、自分の本音を少しずつ伝える努力をします。
自己開示をすることで、少し抑圧から解放されるというのがあります。自分の気持ちを打ち明けることでストレス解消になるのです。感情を浄化して、精神的健康を促進する働きを持っています。相手を配慮しながら、自分の意見も上手に伝えられるように努力していきましょう。そして、もう一つはね自己の明確化です。自分の気持ちをありのままに伝えるとによって、自分自身の意見や感情を再認識できます。我慢して気持ちを抑え込むのではなく、相手に伝えることで自分自身の本心に気づくことがあります。さらに、自分の意見を伝えることによって、どれぐらい自分の意見が妥当なのかを理解できます。例えば「列の横入りなどを上手に注意することにより、周りの人の意見を聴くことになり、どれぐらいの人が嫌な思いをしていたかを知ることができます。周りの目線は気になるものですが、現状の環境で、本当の自分を出せずにいるのは楽しくありませんね。素直に自分の気持ちを伝えて、交友関係を深めていきましょうる。
ノンアサーティブ(攻撃的)を改善するには?
それでは、攻撃的なタイプの方がアサーティブになるために何が必要でしょうか?このタイプは相手より自分の考えや意見を優先するタイプです。相手の意見や気持ちを配慮せず、自分の意見を一方的に押し通すように伝えがちです。 例えば「言い負かす」「怒鳴る」「命令する」などがあり、セクハラやパワハラも、自分の考えや発言が中心で、相手の気持ちに目を向けていないことから、このタイプの典型といえます。また、一見丁寧な表現や相手をおだてるような言い方でも、自分の思い通りになるように操作するような場合は、このタイプに含まれます。自分自身は、「周りの人はあまり意見を言わないので、自分の意見が通りやすい」と感じるかもしれませんが、周囲から見るとこのタイプの人は自己中心的に見えて、周囲から孤立しやすくなります。
また、このような人は、一方的な強引さのために自分の意見を通した後に実は後味の悪さが残ることが多いです。 まずこのタイプの方は、感情的になりやすいことがあり、腹立たしい気持ちが強くなったときには、6秒間だけ、その気持ちを表に出さないように我慢してください。腹が立った時に、少し深呼吸して、6秒間言葉にするのを待ちましょう。怒りの気持ちは一時的に高まっても自然に収まってきます。怒りというのは、相手が自分の期待に応えてくれなかったときに出てくる感情です。その裏には、「こうしてほしい」という期待が隠れていて、その期待が裏切られたために何とかしなくてはと考えて「怒り」というこころのエネルギーが高まるわけです。したがって、そのエネルギーを使って期待する方向に進んでいくことが大事です。感情に任せて思いっきり感情をぶつけてしまうと、そのような現実から遠ざかるばかりです。
そのようにならないためには「6秒ルール」を使った後に、「どのような言い方で何を相手に伝えると自分の期待が実現する可能性が高いか」という戦略を考えてみるようにします。その内容を一度心の中で思い描いてから、落ち着いてそれを口に出すようにしてみてください。そして、このタイプの方は「ルールを破る人は許せない」などの確固たる信念を持っています。もちろん良くないことを正すことは大切ですが、多様化が進む現代社会で、少し柔軟に考えることも必要です。そして、自分に対しても完璧な方が多いので、自分にも相手にも厳しく対応してしまいます。あまりにも型にはまった考えでは、自分自身も苦しくなりますよね。相手の立場も柔軟に考えて、上手に表現する方法を身に付けていきましょう。
アサーショントレーニングのメリット
ビジネスの場でも、家族間・友人間においても、言いにくいことを言わなければならない場面があります。そのような時に、「何も言えない」「言い過ぎてしまう」と、その後のコミュニケーションが辛くなります。お互いのことを尊重しながら、自分の気持ちを伝えあうことで、お互いの信頼関係が深まります。このコミュニケーションを繰り返すことで、さらにお互いの信頼関係の強化に繋がります。そして、上司と部下のような関係性にこそ、アサーションが必要なのです。部下へ必要なフィードバックをする場面でも、上司が一方通行で攻撃的な態度を取ってしまうと、パワーハラスメントになってしまいます。
まとめ 相手も自分も大切にする自己表現をしよう
お互いが心地よいコミュニケーションを取るためには、相手の立場を思いやりながら、相手を気遣う言葉を選んでいきましょう。相手が傷つく言葉を選んでいないか、決めつける言動になっていないかなど、相手の非言語の部分にも注意しながら、上手な自己表現の必要性を考えていきましょう。
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