『超監視社会』とは?安全最優先により自由がなくなる?

コミュニケーション

日本の防犯意識と監視カメラ

  日本全国で犯罪が増加し、治安悪化が深刻化しています。オレオレ詐欺、窃盗、暴力事件など様々な犯罪が発生しており、社会問題となっています。特に、高齢者を狙った犯罪も多く発生し、社会的弱者に対する被害が拡大しています。国土交通省は、在来線の一部と新幹線全路線の車両に防犯カメラの設置を義務付けることを決定しました。
 そのような状況下で、人々の防犯意識は高まり、個人でセキュリティを強化することの重要性に気付き始めています。そして、技術の進歩とネットショッピングの普及により、個人でも性能の良い製品が気軽に購入できる時代になりました。専門業者などに依頼しなくても、個人で自宅に防犯カメラの設置や、あおり運転などのトラブル防止のために自家用車にドライブレコーダーを設置するなどの対応ができるようになってきました。このように、安心して生活するためには監視カメラの設置が不可欠になりました。
 日本全国での監視カメラの設置台数は500万台を超えたと言われており、現代では防犯カメラはどこにでもある存在となりました。2021年の監視カメラシステム世界市場規模は3兆3,600億円、2026年には6兆4,000億円まで拡大すると予測されています。しかし、これで「安全・安心」な生活を送ることは可能なのでしょうか。

ゲーテット・コミュニティとは

 アメリカでは1980年代以後、凶悪犯罪増加に対する恐怖感などの理由で、ゲーテッド・コミュニティが急増し、退職者や富裕層に向けたものから、次第に中産階級向けに拡大していきました。
 これは、住宅地の入口にゲートを設けたり、周辺をフェンスで囲った閉鎖型コミュニティです。部外者の出入を統制し、塀を通したコミュニティの領域性の確保を主要内容とする共同住宅地なのです。
書籍「ゲーテッドコミュニティ-米国の要塞都市」によると「1997年の時点で、300万以上の住戸からなる、およそ20,000のゲーテッド・コミュニティの存在を推定」と記載されています。
 防犯まちづくりの基本は犯罪の起こりにくい環境を作ることが基本であると言えますが、そのために防犯カメラなどの設置が不可欠になります。
 しかしながら、実際にはゲーテッド・コミュニティ内での犯罪件数がコミュニティの外よりも「少ないという事実がない」ことが複数の研究において指摘されています。また、外部の人との往来が極めて少ない地域よりも、犯罪の抑止や事件捜査に協力する人々が周りにいる地域の方が、犯罪発生率は明確に低いこともわかってきています。このような、街づくりは住民に安心感を与えているように見えますが、閉塞的な環境は、本来の意味での安全性を備えているのか疑問もあります。

日本におけるゲーテット・コミュニティ

 このような形式を踏まえた日本におけるゲーテッド・コミュニティも増加しており、高いゲートや監視カメラが隅々まで行き届いた空間が広がっています。そこでは外部との区切りは門や壁ではなく、監視カメラの有効区域なのか圏外なのかという「見えない壁」があるのです。
 例えば、日本の防犯住宅では、「マザーヴィレッジ岐阜」は、防犯カメラの設置に加え、ゲートとフェンスによる制限を行い、「ベルポート芦屋レジデンシャルコーヴ」は、防犯カメラの設置と警備員の常駐に加え、ゲートとフェンスによる制限した住宅地です。
 しかし、このような防犯住宅は、環境に対して批判も多いです。まず、高い塀により地域コミュニティが分断されてしまい、古き良き地域コミュニティが存在しなくなるという点です。コミュニティ内部のセキュリティは担保されても、コミュニティの外はセキュリティの格差を生み出すことにつながり、犯罪者のターゲットは外に移り、監視体制は不可欠となります。
 次に、ゲーテッド・コミュニティの内側から視線が届かない外側の空間が危険になるということです一般住民にとってフェンスが街路から見通しを妨げ、通行人や警察が犯罪に気付かない恐れがあるのです。
 さらに、設備に依存して、住民の防犯意識が低下してしまうというものです。オートロック付きのマンションが出始めた頃、自宅玄関の鍵を閉めない人が多く発生し、これではコミュニティ内の犯罪抑止にならないのです。安全・安心な街づくりとは言うものの、根本的な解決手段は見出せず、地域の分断化を呼び起こす可能性が益々高くなるといえます。

今後の『管理社会』と『監視社会』

 このような過剰なセキュリティに向かう都市を、五十嵐氏は「過防備都市」と命名しています。現代社会は、犯罪がない理想的な街づくりをめざしていますが、その過程では他者を一切排除し、監視を強化させるという環境を我々に強いることにならないのでしょうか。
 安全なテーマパークのような都市では、人々の行動は常駐警備により監視され、すべての出来事や異質なものは究極の予防措置により排除されることになります。その結果、出来事や他者はすべて消去され、「何事も起こらない時代」こそが、セキュリティの目指すところとなるのです。
 大谷氏は「私たちの社会は、花粉症の人間と同様、社会にとって何ら毒にもならないものに過剰に反応し、それを排除しようと過敏になりすぎた結果、異常とまで言える監視社会を作ってしまった。」と述べています。
 さらに、五十嵐氏は「建築というのは外界から身を守るものであり、科学技術によって危険を取り除き、人間が互いに信頼しあう社会をめざしていたが、現在では、空間を走査しながら、個体の位置情報を確認し、データベースに照らしあわせ、不要な人物を特定するというスキャナー化した状態に陥っている。この状態では誰も匿名ではいられず、好まれないものは確実につまみだされる」と述べています。
 本来、社会が目指すのは「規準から外れないよう全体を統制する」という管理することが目標であったのですが、現状では、「警戒して見張る」という監視になりつつあることが問題なのです。
 南谷氏は、管理社会は監視を伴うが、管理社会と監視社会ではコミュニケーションの質に違いがあることを主張しています。「監視社会」は、意思疎通が難しい人間関係になりがちですが、一方「管理社会」は、双方向のコミュニケーションを温存しており、集団の大部分は、秩序や安全性を守る上で、管理は必要なものと納得して受け入れると言います。
 これらは共に、見知らぬ他者への信頼に基づく近代社会の機能不全を示しています。現代では、校内や通学路の安全対策も議論され、住宅には防犯対策の標準装備が求められるなど、もはや都市に開かれた住宅建築の流れは見られない状況です。
 過防備都市を構築しても、完全なセキュリティは不可能であり、犯罪を違う場所に転移するだけなのです。さらに、超小型カメラによる盗撮のように、セキュリティそのものが、場合によっては犯罪を誘発することも考えられます。現在のセキュリティは、安心感というより不安感と他者への疑いの目を増幅させているとも言えるのです。
 ゲーテッド・コミュニティもその延長線上にあり、セキュリティという切り口により現代社会が過剰適応状態にあることを認識し、本来の意味での安全性を考える時代になっているといえます。

まとめ 「監視」だけでなく「管理」に活用しよう

 現代社会では、監視カメラは不可欠になりましたが、自宅に設置するべきか迷っている人も多いと思います。街頭や飲食店、オフィスなどさまざまな場所に設置されている防犯カメラの映像が、海外のサイトで「だだ漏れ」になっているニュースもありました。実際に閲覧したことを報告するネット上の書き込みも数多くみられたということです。背景には、設置業者や設置者の知識不足などがあり、国内に数百万台以上が設置されているとされる防犯カメラのセキュリティの穴が浮き彫りになっていることも伝えられました。やはりメリット・デメリットを考える必要がありますね。
 現代社会では「監視カメラ」は、防犯対策、事故や犯罪を未然に防ぐという役割中心ですが、製造業では、在庫管理を、防犯カメラの遠隔監視システムを活用して事務所内で一括管理したり、サービス業ではお客様がお困りの場所にスタッフが足りないという状況がないかを確認することにも使用されています。個人の方では遠隔からご自宅の状況を確認できるので、高齢のご両親やお子様を見守ることを行うこともできます。「監視」だけでなく「管理」という目的で、問題解決や安全性のために活用していきたいですね。

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参考文献
防犯カメラ映像、ネット「だだ漏れ」のリスク
https://news.yahoo.co.jp/feature/96/
五十嵐太郎(2012)過防備都市の是非を問う Vol.2005(2005)No.48 P14-18
五十嵐太郎(2004).過防備都市 (中公新書ラクレ) 中央公論新社.
エドワード・J. ブレークリー (著)、メーリー・ゲイル スナイダー (著)、竹井隆人(訳)(2004)
 『ゲーテッドコミュニティ-米国の要塞都市』 集文社
大谷昭宏 (2006). 監視カメラは何を見ているのか  角川書店
小野木祐二 桶野公宏 雨宮 護 小場瀬 令二 防犯に配慮した戸建住宅地開発の経緯と課題 
都市計画報告集 6-1(0), 33-37, 2006
崔廷敏 住宅団地の閉鎖性に関する調査分析 ― 日米の郊外ゲーテッド・コミュニティを対象に―
楠美淳弥・太田裕貴・中井美華(2012) バーチャル・ゲーテッド・コミュニティにおける利用者による画像共有を実現する画像管理システム 日本大学理工学部 学術講演会論文集
株式会社矢野経済研究所 https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2813
公益社団法人 日本防犯設備協会 https://www.ssaj.or.jp/
南谷覺正(2013)管理・監視社会の中の「自由」と「平等」 群馬大学社会情報学部研究論集 20, 99-118, 2013